「コルトS.A.A(シングルアクション・アーミー)」

いつまで経ってもウェスタン

最初のエッセーで『昭和30年代も後半、TV映画はウェスタンブームで、クリント・イーストウッドが若かりし頃に出ていた「ローハイド」やジェスとスミスでお馴染みの「ララミー牧場」などが週末になると放映されていました。』と書きました。
今はポリマー樹脂で出来た現代的なオートマチックが流行で、もちろんそれも大好きなのですが、あの当時はリボルバーが全盛だったのです。
それもシングルアクションアーミー。通称「ピースメーカー」と呼ばれていたアノ銃です。
劇中で主人公がごく自然に銃をホルスターに仕舞う動作が何とも言えず格好良かったのです。
クルクルと銃を回しながらホルスターに仕舞うのはファニーガンプレィと言ってあまり魅力は感じませんでした。
しかし、夕日に煌めくニッケルメッキのS.A.Aの格好良さったらないですよ。真鍮のトリガーガード・バックストラップと黒いガン。或いはすべてが銀色に輝いているS.A.Aは正義の証だと感じたものです。

ウェスタン映画を見たらS.A.Aはやっぱり欲しくなると言うものです。
昭和43年頃、奈良で売っていたS.A.AはCMC でした。
すべてが亜鉛合金で、銃口にはインサートが入っているというものの、火薬を入れて引き金を引けば轟音と共に銃口から派手に火を噴きました。
機構そのものは約100年ほど前からプルーフされたものですので、モデルガンとしても作りやすかったのだと思います。
フレームとバレルは一体で作られ、シリンダーストップ・ハンマー・シリンダーハンド・メインスプリング・トリガー・トリガースプリング・シリンダー・シリンダーベースピン。
そしてトリガーガード・バックストラップとグリップとそれらを固定するネジですべてのパーツが構成されているのです。

このなかで、買ったら最初にするのがシリンダーストップのタイミングを調整します。
でないとファニングをするとシリンダーがオーバードライブするからです。
次にメインスプリング。これは焼きの入った板バネなので、長手方向に砥石かオイルストーンでしなやかになるように研ぎ出します。
ハンマーの付いたオートマチックのようにショートストロークではなくてS.A.Aはロングストロークハンマーなので撃発するのに最小限の強さがあればいいのです。

ホルスターを買うお金はないので、練習と言えばガンスピンばかり。
机の前に座っていても左手は銃を握って前に回したり後ろに回したり、時は水平スピン(バタフライスピン)も織り交ぜて練習をしました。
右手は鉛筆を持っているからお役ご免です。
落とさないように下には座布団を敷いて練習をしてゆくうちにだんだんと上達し、最終的にはお箸を持つのと変わらないぐらいに日常的な仕草となりました。

映画の世界が米国の古典的なウェスタンからイタリア映画のマカロニウェスタンに移行してもS.A.Aの良さは変わりません。
昭和45年頃、銃の雑誌(GUN誌)にカスタムの極地とも言える真鍮製の銃たちが販売されていたその中で、六研から販売されていた全鉄製のトンプソンM1928や真鍮製の「六研ファーストドロウスペシャル」がわたしの目を釘付けにしました。
六研ファーストドロウスペシャルは全真鍮製削り出しにニッケルメッキ後撃針で発火するリアルガンとほぼ同様の作りをしたモデルガンです。
実銃のファーストドロウに使用するための「ファイブインブランク」というブランクカートリッジが使用できるとも聞いたことがあります。
その頃の奈良で六研ファーストドロウスペシャルをえらい偶然とはいえ見ることが出来たのは幸せでした。
とある輸入衣料を販売しているお店に入ったところ、入り口近くのショーウィンドウにバックルや棒タイに混じってウッドケースに収まった六研ファーストドロウスペシャルが飾ってあったのです。

ニッケルメッキされたきれいな銃で、雷管も一緒に円形のケースに入っていました。
値段は4万円ほどだったと思います。高校生のわたしにはとても買える値段ではありませんが、店長の好意で手に取ることは許されました。
その冷たくソリッドな感触とカリッというシリンダーの回転音は忘れられません。


そして金属銃が世の中から葬り去られてしまった20世紀も終わりの頃、タナカというメーカーからひとつの銃が発売されました。

6mmBB弾を飛ばせるエアーガンとしてS.A.Aが発売です。
シリンダーの中がガス室になっていて、ゲートを開くとダミーのカートリッジヘッドが見えるようになっています。
ペガサスシステムと呼ぶらしいですねコレ。

回転するシリンダーの中にカートリッジを入れるのではなく、ガスを入れる発想がイイ。
カートリッジを入れることも出来ないので可笑しな改造も出来ません。安全な設計だと思います。

2000年の中頃にメッキモデルも発売。
それは今までのクロームメッキに代えてニッケルメッキがされていました。
特に真鍮製のバックストラップとトリガーガードの付いたデラックスモデルはあの六研ファーストドロウスペシャルを彷彿とさせます。

散々迷ったすえに21世紀になった1月、20数年来あこがれていたあの六研ファーストドロウスペシャルを思い出させてくれる銃が手元に来たのです。
箱から開けて取り出すとずっしりと重く、外気の寒さも手伝ったのでしょうが、ひんやりとした金属感まで感じました。
バレルとフレームはABS製とは言え、全体の重量バランスはなかなかのものです。

手の中でくるっと回すとウエスタンに夢中になっていたあの頃が蘇ってきました。
トリガーが左手の人差し指の周りをまとわりつくように回り、親指と人差し指の間に真鍮のバックストラップがぴったりとはまります。

 これだったんですよね。S.A.Aの良さって。
 高校生の頃から30年経った今、コンピュータのモニターの横にはニッケルメッキされて真鍮のバックストラップ・トリガーガードが付いたS.A.A(シングルアクション・アーミー)がわたしの心をあの頃に引き戻してくれています。